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1878.10.03(Thu)

 今日私たちは国際的な、戯曲的な、音楽会のマチネーで4時間ばかりを過ごした。まずアリストパネスのものがあったが、驚くべき服装で、筋をはしょって、悪く変更して、実にいとうべき演出であった。
 立派だったのは「クリストファー・コロンブス(底本:「クリストフ・コロム」)」という戯曲的暗唱をロッシがイタリア語でしたことであった。何という声、何という調子、何という表情、何という自然さであったろう! それは楽器よりも美しかった。イタリア語を理解せぬ人にとっても立派に思われたことと思う。
 それを聞いているうちに私はほとんど彼を崇拝するような心持ちになった。ああ! 何という偉大な力が言葉の中にこもっていることだろう。その言葉が単に暗唱されたばかりで、真の雄弁というでもないのに!
 その次に美しいムネ・シュリー〔フランスの俳優/1841-1916/底本:「ムネ・スリ」〕の暗唱があった。……しかしこの人のことは言わないことにしよう。ロッシの暗唱は高い芸術である。彼は大芸術家の心を持っている。帰りに私は彼が出口で2人の男と話しているのを見たが、平凡な風采であった。彼は俳優には違いないが、彼のごとき芸術家には日常生活の中にも性格のすぐれたところがあるに相違ない。私は彼の目を見て、彼が平凡人でないことを知った。けれども、その魅力は彼がものを言う時のみに現れる。……ああ! しかし、不思議ではある。……芸術をあざけるニヒリストたちがあることを考えると!
 何というつまらない生活だろう! 私は聡明であったら、これから脱出することを知り得たかも知れなかった。しかしただある人の声を信用するのみであった。そのある人というのは私自身のことである。どこに私は自分の英知を証拠立て示したであろう!
by bashkirtseff | 2008-11-27 09:55 | 1878(19歳)
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