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1878.06.12(Wed)

 明日は土曜日以来捨ててあった仕事に帰ろうと思う。私は後悔している。明日からは何もかも平静に服するであろう。夜だけでも仕事は十分に出来るであろう。
 ムッシュ・ルーエー〔ウジェーヌ・ルーエー(1814-1884/底本:「ユウゼエヌ・ルウエエ」)フランス国民議会から内閣に入り元老院に入った。彼は頑強なるナポレオン派であった。このとき64歳であった〕はいろいろな点で私を驚かした。第1に、その若さによって。──私はもう彼は白髪になってよぼよぼしているだろうと想像していた。しかるに、馬車から飛び降りて、手を差し出して、馬車屋に払って、階段を駆け上るのを私は見た。その次には、彼の考え方によって。──半端な教育を受けた者はすべての権威というものを全然否定するものだと彼は言った。彼は無知の利益(もっともこれは厄介な問題だが)ということを解いて、新聞は市街に広く振りまかれる毒だと主張した。
 あなたは想像することが出来るでしょう、私がどんな好奇心を持って副皇帝であった人を眺めたりその言うことに耳を貸していたかを。
 けれども私はここで私の判断をあなたにお話しする必要はありません。──第1、私は彼をよく見なかったから。第2、今夜は話したいとも思わないから。彼は自分で良く知っているいろいろな面白い話を私たちにして聞かせた。例えば1867年に私たちの皇帝に対して企てられた計画や、皇帝の家族のことなどを話した。そうして私たちに皇太子を知っていなかったかと聞いた。あなたも想像しうるごとく、私はこのボナパルト党の大家に対しては味方らしく見せかけた。
 私は自分の巧妙なお世辞や、機知に自分ながら驚いている。ガヴァニィと男爵は私を完全に称賛するように思われた。ムッシュ・ルーエーは満足していた。けれども……湿った花火を上げるようなものであった!!!
 皆は私の前で選挙のこと、法律のこと、書物のこと、忠義な人間たちのこと、裏切りした人たちのことを話した。私は聞いたであろうか? おお! 自分では聞いたと信じている。それは天国の入り口の扉のようであった。それから私は女はただ害を加えることが出来るのみで、過度ということの前に踏みとどまれるほどにまじめでないから、何事にも携わってはならぬと言った。
 私は自分が女であることを悔しく思っている。ムッシュ・ルーエーは彼が男であることが悔しいと言った。
 ──女というものは、彼が言った、われわれのような心配もなければ、不安もないから。
 ──失礼でございますが、ムッシュ、私たちだって皆それは同じように持っています。ただ男の方の心配というものは、男に高名と名誉を与えます。けれども女の心配は、わたしどもに何物も与えてくれません。
 ──それでは、マドモアゼル、あなたはわれわれはいつも、そういった報酬を受けているとお思いですか?
 ──私は思います、ムッシュ、それは全く男だからだと。
 あなたは私がいきなりこんな対話に入り込んだと想像してはいけません。私は少なくとも10分間は隅の方に引っ込んでいくらか当惑していました。なぜと言うにその古ぎつねは私が彼に紹介されたことを少しも喜んでいるような顔を見せなかったからです。
 あなたはまだ何か知りたいと思いますか? 私は面白くなってきました。何だか自分の言った利口そうなことを皆あなたに話してあげたくなりました。けれども話せません。私はただ自分が平凡な話をしまいと思って、また善良な分別に満ちているように見せかけようと思って一生懸命に努力したとだけは言うことが出来ます。だから私の言ったことは実際以上に立派に聞こえたとあなたはお思いになるでしょう。
 ガヴィニィは、ボナパルト党には多くの美人の同情があるから幸福だと言って、私の方へ向いて頭を下げた。
 ──ムッシュ、私はムッシュ・ルーエーに話しかけて答えた、私があなたの党派に同情を寄せますのは女としてではなく、人としてです。主義の人としてです。
by bashkirtseff | 2008-11-17 15:38 | 1878(19歳)
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