1873.10.28(Tue)

 かわいそうな母様はまだよくならない。医者の分からず屋たちが発疱剤(ヴェシカトアル)を用いたので、母様はひどく苦しんだ。最上の療法は冷水かお茶である。それは簡単で、自然である。
 どうしても死ぬと決まれば、世界中の医者を連れて来ても死ぬ。反対に、死ぬことが運命でないときには、誰も助ける人がなくても死ぬものではない。
 そんなわけだから、私にはそんな恐ろしい療法はしないでおいた方がいくら良く思われたか知れなかった。
 おお! 私はせめて20歳にもなっていたら! 私はただ夢想家で、未来もないくせに野心で満たされている。私はどんなに自分の憂苦を好むだろう! どんなに自分の生活を好むだろう! 私は自分の空想の中でそれを作り上げていたが、今ではそれも崩れてしまった。
 公爵は私に取っては死んだようなものであるけれども、それでも私はまだあの人のことを思っている。私は雲霧の中にある。何もかも不安になって、神に祈るべきものもなくなった。
 ポオルは何事もしようとしない。彼は勉強をしない。彼はまじめでない。彼は勉強は自分のためと言うことを理解しない。それが私を怒らせる。私の神様、彼に理解力を与えて下さい。彼に勉強しなければならぬことを分からせて下さい。彼に何者かになれるような野心を吹き込んで下さい。私の神様! 私の祈りを聞き入れて下さって、彼を悪くするような人たちに近づかないように彼を守り彼を保護して下さい! ……
 決して私は自分より階級の下の男などには目もくれたくない。平民は私に嘔吐(おうと)を催さしめ、私を不快にする。貧しい人間は自分の半分を失っている。彼は小さく、哀れに見えて、卒(#しもべ)のような顔をしている。これに反して富んだ独立した男は、いつも誇らしげに、いかにも愉快そうな様子をしている。勝利の確信を持っている。私がH…を愛するのは、あの人には自分で満足すれば良いといったような気ままな見え坊な残忍なところのあるような顔をしているからである。あの人の中にはネロ(もっとも残忍なローマ皇帝、54-68/底本「ネロン」)のようなところがどこかにある。
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by bashkirtseff | 2004-11-09 21:13 | 1873(14歳)
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