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1873.10.21(Tue)

 私たちが入って行くと、皆は食事をしていた。私たちは食事前に物を食べたと言って母様に少し説教された。私たちのいつもの愉快の家族の集まりが少し色めいた。ポオルが母様にしかられる。祖父様(グランパパ)が出なくもよい所へ出て口を入れる。それがポオルの母様に対する礼儀を傷つける。ポオルは召し使いみたいにぶつぶつ言いながら出て行く。私は中に入って、祖父様に母様の権威に干渉しないで、母様の最上と思うことをおさせなさいと頼んだ。なぜと言うに、もし分別が足りないで子供を親に盾突かせるようなことになれば、それは罪悪であるから。今度は祖父様が怒鳴りだした。それが私を笑わせた。祖父様の怒りはいつも私を笑い出させる。そうして、自分では少しも悪いことは無いけれども、何にもすることがないために殉難者となってしまうような不幸な人たちを気の毒に思う心でいっぱいになる。ああ。せめて私がもう10も年をとっていたならば! 何事にも自由な心持ちでいられたならば! けれども叔母とか、祖父とか、日課とか、家庭教師とか、家族とか、そういったようなもので手足を縛り付けられているときに、何事が出来るであろう? ……混乱と喧騒(けんそう)! ……
 私の悲しみはもはや鋭くもなければ、激しくもなければ、突発的でもなく、鈍い、平静な、理性的なものになった。と言って、それがために悲しみが薄らいだわけではない。
 いや! いや! ……思い出はすべて残っている。それが無くなったときには、私は不幸になるだろう! ……
 私はこういうことを書き連ねていると、気抜けのしたようになってしまって、いろいろと思い巡らした末、自分はまだあの人と話をしたこともなかったのだとか、手近で見たのも十度か十五度くらいに過ぎなくて、大概は遠くから見たり、馬車に乗っているのを見たりしただけだ、というようなことが思い出された。それでも私はあの人の声を聞いたことがあるし、いつまでたってもそれを忘れることはないだろう! 書けば書くほど書きたいことが増えてくる。それでも私の感じていることを皆書くことは出来ない! 私は力以上の絵を仕上げようと思い付いた不幸な画家のようだ。
 私はあの人を愛している。そうしてあの人を失った。これが私の言い得るすべてである。すべて以上である。
 食後に私は歌って、騒がしい家族の人たちを喜ばせた! ……
by bashkirtseff | 2004-11-07 15:29 | 1873(14歳)
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