1873.10.18(Sat)

 私はお祈りを変えた。そうしてあの人に対するお祈りを省いた。実際、皆省いてしまった。なんだか私の胸は引き裂かれるようであった。私は愛する人のひつぎを見送るような心持ちがした。そのひつぎがまだそこにある間は、人は不幸である。けれどもどこを見ても皆空虚に感じられるときほど不幸ではない。
 私は今となると、あの人が私のお祈りの心であったことがわかる。私のお祈りは穏やかに、冷たく、理性的になったけれども、これまでは生命と熱情であふれていた!! あの人は私に取っては死んだものである。ひつぎはここから出て行った! 私の悲しみは涙を誘いがちであった。けれども今では乾いている。神様のおぼしめしが成し遂げられるのであろうか! 私はいつもあの人のために十字を切ってどの方角へも送ることにしていた。そのくせあの人がどこにいるかと言うことは知らなかったけれども。今日からはそれもしないことにした。けれども私の心臓はまだ鼓動する。
 私は不思議な人間である。誰も私が苦しむほど苦しむものはあるまい。けれども私は生きる。私は歌う。私は書く。10月13日のあの致命的な日以来、私はどんなに変わったことだろう! 苦しみが形に現れてきた。あの人の名前を聞いても、もはやうれしい心は起こらない。それは火である。非望である。嫉妬と悲しみの呼び覚ましである。女の身の上に降り掛かるものの中での最大の不幸である。私はそれを経験した! ……痛ましい嘲弄(ちょうろう)!
 私は自分の声のことをまじめに考えるようになってきた。私はよく歌えるようになりたい! でも今となっては何の役に立つだろう?
 あの人は私の心の中の明かりのようなものであった。その明かりが消えてしまったのである。どこを見ても真っ暗で、陰気で、物悲しい。私にはどちらへ回ってよいかわからない。これまでは私の小さい煩いの中にはいつも一つの支えがあって、私を導き助けていた。けれども今はそれを求めようとしてもかいはない。どこを見ても暗闇と空虚である。恐ろしい! 恐ろしい! 心の中が空虚になってしまった。……
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by bashkirtseff | 2004-11-07 14:20 | 1873(14歳)
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