1873.10.13(Mon)

 私が今日の日課を調べていると、イギリス人の家庭教師なる小さいヒイダアが言った、「公爵が公爵令嬢M…と結婚なさるという話をお聞きですか?」私は火のように熱くなったから、書物を顔に近寄せた。私は鋭いナイフに心臓を刺し通されたような気がした。震えだして、書物が持っていられなくなった。自分でも気絶しはしないかと心配になった。けれども書物が助けてくれた。幾分間か書物を見ているような風をしているうちにやっと気が落ち着いて来た。声を出して読んでみたが、まだ息がはずんで震え声が出た。私はありったけの勇気を振り絞った。──水泳場の橋から飛び込もうと思うときに以前よくそうしていたように。──そうして自分を抑えねばならぬと自分に言い聞かせた。私は話をしないで済むように、書き取りをした。
 ピアノの所へ行ったときはうれしかった。しかし弾いてみると、指が冷たくこわばっていた。公爵夫人がクロケを教えて下さいと言ってきた。「ようござんすとも」と私は快活に答えた。けれども私の声は震えていた。──馬車が来た。私は急いで着替えをした。緑色のローブを着ると、髪は金色だし、顔は白くて赤いから、私は天使か、女か、というほど美しく見えた。私たちは出掛けた。G…の家があいたままになっている。職人が仕事をしている。装飾屋と大工らしい。彼女は行ったのだ。どこへ? 金をこしらえにロシアに行ったのではあるまい。
 いつも私はこう考えている。「あの人が結婚する! そんなことがあるだろうか? 私は不幸だ!」と。不幸だとは言っても、以前に私が壁紙のことや装飾具のことなどで不幸だったほどではない。それでも真実不幸である!
 私はあの人が結婚するということを、公爵夫人にどういう風に話せばよいか分からなかった。(なぜならば、いつか皆に知れることであろうから。)それで私から話しだした方が良いだろうと思った。
 私は彼女が安楽いすにかけていて、光が私の後ろになって私の顔が見られなくなっている瞬間を選んだ。「あなたは最近の出来事を知っていらして、公爵夫人?」私は言った。(私たちはロシア語で話していた。)「公爵H…は結婚なさるのですって。」とうとう! 私は言ってしまった。……私は赤くはならなかった。私は落ち着いていた。けれども、どんなものが私の心の中を通り過ぎたか、それは誰もわからないだろう!!!
 あのおせっかいな人に、その恐ろしい話をして聞かされた瞬間から、私は、1時間も駆け通したかのように息が切れて、胸が痛んで、鼓動が激しくなっていた。
 私はむちゃくちゃにピアノを弾いた。けれども弾いている途中から指が弱ったから、いすに寄っ掛かった。私はまた引き出した。──同じところを。──少なくとも5分間は引き出したり、よしたりした。のどに何か塊があって、それが息を止めるのであった。少なくとも十度、私はピアノからバルコン(#バルコニー)へ駆け出した。ああ! 何という心持ちだったろう! ……
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by bashkirtseff | 2004-11-03 20:25 | 1873(14歳)
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