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1873.06.09

 私は絵のけいこを始めた。私は疲れて飽きてもう働けない。ニースの夏は私を殺しつつある。誰一人ここにはいない。私は苦しくて、泣きだしそうである。一言で言えば、私は不愉快である。人間は一度きりしか生きられない。ニースで夏を過ごすのは生活の半分を失うものである。今私は泣いている。涙が一つ紙の上に落ちた。おお! 母様やそのほかの人たちが、私がここに留まっているのがどのくらいつらいものであるかを知ってくれたなら、こんな恐ろしい砂漠に私を置いておくことはしまい。私はあの人のことばかり思っている。もう長い間あの人の名前を聞かないのだもの! 死んだのではないかしら。私は霧の中に生きているようなものである。過去は呼び起こすことは出来ない。現在はいやでしょうがない! ……私はすっかり変わってしまった。声はしゃがれ、顔は醜くなった。以前には朝目が覚めると新鮮な赤い顔をしていたのに。 ……何が私をこのように苦しめるのだろう? 何が私に生じたのであろう、何が生じようとしているのだろう?
 私たちは別荘バッキを借りている。実際ここに住まうのは非常な試みである。Bourgeouis(ブルジョア/中産階級者)にとっては良いかも知れぬ。けれども、しかし私たちにとっては! ……私のことを言うと、私は貴族である。私は金持ちのブルジョアよりも、零落した紳士の方を選ぶ。私は金めの懸かった無趣味な家具よりも、黒ずんでいても、古い繻子(しゅす/#サテン)とか、メッキ物とか、古代の円柱、または装飾とかにはるかに大きな美を見いだす。真実の紳士は磨き立てた靴や、しっくりはまる手袋などを誇りにするものではないだろう。と言って服装のことなどはどうでもよいと言うのではない。決して! ……貴族の無頓着と平民の無頓着との間には非常な相違がある!
by bashkirtseff | 2004-10-24 21:57 | 1873(14歳)
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