マダム・サヴェリエフは死にそうである。私たちはこれから見舞いに行く。彼女はもう2日間意識を失ってものを言うことが出来なくなっている。年取ったマダム・パトンがそばについていた。始め私は寝台に寝ている病人を探したけれども、何にも目につかなかった。やがてその頭が見えた。けれども彼女は丈夫な婦人であったのが、やせ衰えた人になっていた。口は広く開いたままで、目はかすんでおり、息は苦しそうであった。みんな声を殺して話した。彼女は相づちをしなかった。医者たちはもう何にも感じないと言う。しかし私には、彼女は自分の周囲で話されていることはいちいち聞こえて理解しているけれども、叫ぶこともものを言うことも出来ないのだろうと思われる。母様がさわると、彼女はうめき声のようなものを発した。年取ったサヴァリエフ(婦人の夫)ははしご段で私たちと出会った。彼は泣き出して、母様の手を握って、すすり上げながら言った。「あなたもご病気なのだから、お気をつけなさらないといけませんよ。本当にご用心なさいよ!」そのとき私は黙って彼を抱擁した。彼の娘がその次に入ってきた。彼女は寝台の上に体を投げかけて母の名を呼んだ! 彼女はもう5日間こういう状態だということであった。一日一日と母親に死なれていく人を見るのは耐えられなかった! 私は老人(サヴァリエフ)と一緒に次の部屋に行った。この2、3日の間になんという年とったことだろう! 誰にも多少の慰めはある。彼の娘にはその子供たちがある。けれどもこの人だけは一人きりである。この人は30年間妻と暮らしてきた。そうしてそれは一通りなことではない! 彼は妻と豊かに暮らしたか、それとも豊かではなかったか? いずれにもせよ、習慣は多くを値するものである。私は何度も病人の所へ行ってみた。女中頭はいつもそのそばにつききっている。召し使いがその主人にこれほどの愛情を持っているのを見るのはうれしいことである。老人はほとんど子供のようになっている。