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1877.02.11(Sun)──ナープル

 トレド(ナープルの町の主要な大通り/底本:「トレドオ」)における私たちの地位を理解するためには、コリアンドリ(石灰または粉を塗った色紙)を投げる慣例の日のことを実見して知っていなければならぬ。ああ! しかしそれを見たことのない人には、あの黒い骨張った幾千の手と、ぼろと、美しい馬車と、羽根と、金飾りと、殊にもリスト(ハンガリー(底本:「ウンガリア」)生まれの音楽者/1811-1886(底本:「1821-1868」))をしてせん望の念に耐えざらしめるほどのその器用な指先と、これらの概念を描くことは出来ないであろう。雨と降る菓子の中を、群衆の叫びの中を、私たちはいきなりアルタムラに引っ張られて、ほとんど運ばれるようにして彼のバルコンへ連れて行かれた。そこで大勢の婦人たちに会った。……その愛想良き婦人たちは皆笑い傾けて私に飲み物を勧めた。私は灯を半分入れてある客間に退いて、頭から足先まで着物にくるまって泣いた。同時に毛織り外とうの古風なひだに感心しながら、私は非常に物悲しくなった。けれどもそれは喜びの混じった悲しさであった。あなたも私のように悲しみながらうれしさを感ずることがありますか?
by bashkirtseff | 2006-07-25 19:23 | 1877(18歳)
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