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 プロムナードで、馬車の中に、背の高いやせた色の浅黒い若い男が乗っているのを見た。私は誰か見覚えのある人のように思った。驚きの叫び声が私から出た。おぅ! カロH(アッシュ)…! 皆が聞いた、どうしたの? それで私はマドモアゼル・コリニョンに足の指を踏まれたのだと答えた。
 その人(公爵の弟)は兄には少しも似ていなかったが、それでも私はその人を見てうれしかった。おお! あの人とでもよいから近づきになりたい。そうしたら、あの人を通して私は公爵を知るようになれるかもしれない! 私はあの人を姉弟かなんぞのように愛する。あの人は公爵の弟だから。食事の時ワリツキがいきなり、「H…」と言った。私は顔を赤めて、混乱して、食器棚の方へ行った。母様がそんなことをするものではありません、うんぬん、と言った。彼女は何か感づいているのだろう。なぜと言うに、誰かがH…の名前を言い出すたびにいつも私は顔を赤くして部屋を出て行くから。けれども彼女はそのことで私をしかりはしない。
by bashkirtseff | 2004-10-07 23:15 | 1873(14歳)
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