マダム・ホワード(底本:「ホワアド」)に昨日私たちは招待されて、彼女の子供たちと一緒に昼間を過ごした。私たちが帰ろうとしていると、彼女が戻って来て、母様にお会いして、私たちを夜までとどめて置くようにお許しをもらってきたと言った。私たちは居残って、食後にみんなして大きな客間へ通った。客間は暗かった。娘たちは私にたくさん歌って下さいと言って、私の前にひざまずいた。子供たちも同じようにした。私たちはずいぶんと笑った。私は「サンタ・ルチア」と「日は上れり」と、それからルラード(底本:「ルラアド」)を幾つか歌った。みんなが非常に喜んで気違いみたいになって私を抱いた。もし公衆の前でもあれだけの感銘を引き出し得るなら私は今日すぐにでも舞台に立ちたいと思った。
衣装よりほかのことでほめられるのは非常な感動を起こすものである! 本当に私は子供たちからあれだけほめられてもうれしかった。だから、もしほかの人にほめられたら? …… 私は勝利と感動のために造られている。それ故に私の出来ることのうちでの最上のことは歌う人になることである。もし神様が私の声を保存し、強め、発達させて下さるならば、私は自分の望む通りの勝利が得られるだろうと思う。そうしたらば私は有名になって褒められるという幸福をも得られるだろう。そうなれば私は私の愛する人を自分のものにすることも出来るだろう。今のままであったならば私はあの人に愛してもらえる望みはほとんどない。あの人は私の存在さえ知らないのである。けれどもあの人が光栄と勝利に包まれている私を見たらばどうだろう! ……人間は功名心が強い。……それで私は社交界に迎えられるだろう。なぜというに、私はたばこ店や、怪しげな町から出てえらくなった人間ではないから。私は貴族の生まれである。私は境遇がそれを要求しないから、自分の才能を利用する必要はなく、自分を高めれば、ますます大きな名誉が得られ、そうしてそれがますます容易になるであろう。そういう風にして私の生活は完全になるであろう。私は光栄と、名誉と、全世界に知られることを夢見ている! あなたが舞台に現れると、何千人という人が並んで胸をときめかせながら、あなたの歌い出す瞬間を待ち構えている。あなたがその人たちを見ると、あなたの一声で今にみんなを足元に引き寄せることが出来るということがわかる。それで威張った目つきでその人たちを眺めてやる。(私にはなんでも出来るから。)──これが私の夢である。これが私の生活である。これが私の幸福である。これが私の欲望である。それから、その中に交じってモンセニョール(底本:「モンセエニョ」)・ル・公爵・ド・H…が、ほかの人たちと一緒に私の足元にひざまずく。けれどもその人だけはほかの人と同じようには扱われない。ねえ、あなたは私の輝かしさで目がおくらみになったでしょう。そうして私を愛してくださるでしょう。あなたは私があらゆる光栄に包まれているのを見てくださるでしょう。──あなたばかりは本当に私のなりたいと思っているような女を妻となさるにはふさわしい方です。私は醜くはありません。いいえ、私はきれいです。どっちかと言えば、きれいです。私は彫刻のように完全な良い体をしています。私は髪の毛も相当にきれいです。私は人をまよわすような身ぶりも出来ます。男に対する仕向け方も私はよく知っております。 私はつつましい少女だから、自分の夫になる人よりほかの男には決して接吻(せっぷん)しない。私は12から14まで位の少女は誰も言えないようなあることを誇りとして言い得る。それは男に接吻されたこともなければ、また男に接吻したこともないという誇りである。──それで、女で達せられる限りの最高の名誉の頂点に立っている一人の若い娘が、子供の時から、単純な、つつましい、変わらぬ愛を持って自分を愛していたということを知ったならば、あの人は驚くだろう。あの人はどんな価を払っても私と結婚したいと思うだろう。そうして誇りを持って私と結婚するであろう。しかし、私は何を言っているのだろう? なぜ私はあの人に愛されるようになるだろうと言えないだろうか? ああ! 言えるとも、神様のお助けさえあれば。神様は私の愛している人を私のものにする方法を、私にみつけさせて下さったのだもの。……ありがとう、おお、私の神様、ありがとう!
by bashkirtseff
| 2004-10-07 23:11
| 1873(14歳)
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