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1876.10.20(Fri)

 朝の8時に、空は曇って、黒い大地は雪でまだらに、ちょうどマダム・B…の顔のように粉を振りまかれていたが、私たちはすでに漁に出ていた。ミセルは一群れのレヴリエ〔猟犬の犬〕を連れてきた。私は野に出るとペリス〔毛裏外とう〕をも脱がないで馬に乗り、そのペリスをばひもで腰の周りに締め付けた。つなぎ合わされた3匹の犬が私にあてがわれた。
 霜と雪と馬と犬の美しい首と、これらが喜びをもって私を満たした。私は限りなくうれしかった。
 パシャは私と並んで馬に乗って甚だしく愉快そうにしていた。それが少しも彼に似合わしくないので私は悩まされた。けれども彼の気質の動揺は軽べつすべきものではなかった。
 ──パシャ、私の邪魔になって仕様のない人があるのですが、(そんなにびっくりしないでいらっしゃい、伯母T…じゃないのよ)私はその人を荒立たないように片づけてしまいたいのです。
 ──よろしい、僕にやらせて下さい。
 ──本当に?
 ──やらせて見て下さい。
 ──あなたの名誉にかけてね? きっと誰にも言いませんか?
 ──私の名誉にかけて、誰にも言いません。……
 こんな話から青い人と私との間には一種の契約が出来た。
 私たちは、彼の母親がいないときは、イギリス語で小声で話さねばならなかった。
 パシャはどこまでも愉快そうにして行こうとした。それで私は両手を接吻するために与え、ヴィクトル・ユーゴー(底本:「ユウゴオ」)の詩集を読むために与えた。そうして兄のように彼を取り扱った。
by bashkirtseff | 2006-03-03 21:35 | 1876(17歳)
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