けさポオルが私のところへ叔父アレクサンドルの息子なる小さいエチエンヌを連れてきた。私は初めは見分けが付かなかった。私は父がババニイヌ家の者に会ってどれだけの愉快とか不愉快とかを与えるかということには少しも注意を払わないで、そのかわいらしい子供に私自らをささげた。
ついに父は私をポルタヴァの上流の人たちのところへ連れて行った。 私は一番に長官の妻を訪問に出掛けた。彼女は世間慣れた、愉快な婦人である。長官もそういったような人である。彼はある会議に列していたが、客間へ入って来て、父に向かって、こんな美しい婦人が見えると会議がつまらなくなると言った。 長官の妻は私たちを玄関脇の前部屋まで送って来た。それから私たちは好ましい人たちの訪問を続けた。 私たちは副知事を訪ねた。それから貴族女学院の院長を訪ねた。それから、マダム・ヴォルコヴィキ(コッチュベイの娘)を訪ねた。この後者は極めて婦人らしい婦人である。それから私は馬車に乗って叔父アレクサンドルに会いに行った。彼は妻と子供を連れてここのオテルに来ているのである。 ああ! 自分の身内の人たちの間に立ち交じるのはどんなに懐かしいものだろう! ……ここでは批評の恐れもなければ、誹謗の恐れもない。父の方の親せきが私に冷淡で同情なく見えるのは、多分母方の身内が特別に親密で情愛が深いために、その対照からそう見えるのであろう。 あるいは用向きを話したり、あるいは愛について話したり、あるいは誹謗について話したりしながら、私は2時間を幸福に過ごした。するとその2時間の終わり目に父からの使いが入り替わり立ち代わり来だした。けれども私はまだ帰りたくないと使いの者どもに言ったので、今度は父が自分で迎えに来た。それで私は留め針を探したり、ハンカチーフを探したり、そのほかいろんなものを探したりして暇取らせながら半時間以上も父をじらしてやった。 けれどもついに私たちは出掛けた。そうして父がいくらか気が静まったと思われたときに私は言った。 ──私たちは失礼ばかししていたのですわね。 ──どんな失礼を? ──だって皆さんをお訪ねするはずだったのですもの。もっとも、マダム・M…だけは、母様のお友達で、子供のときから私を知っていらっしゃるので、お訪ねしないことになってはいたけれども。 この話から話が変わって、とうとう拒絶されてしまった。 長官が私にいつまで父のところへいるつもりかと聞かれたときに、私は父を一緒に連れて帰りたいのですと答えたことがあった。 ──おまえは私を連れて行きたいと言ったときに長官が何と言われたか覚えているだろうな? 私の存在の創造者が言った。 ──何でしたかしら? ──長官はわしに maréchal de la noblesse〔貴族の頭目〕として大臣の認可をもらわねばなるまいと言われた。 ──いいわ。じゃ早く大臣にお願いして、いつでも立てるようにして下さいな。 ──よろしい。 ──じゃ、私と一緒に行って下さるのね? ──そうだとも。 ──本気でおっしゃっていらっしゃるのでしょうね? ──そうだとも。 もう8時を過ぎていたので、馬車の暗闇は私をして言いたいだけのことを嫌な顔をするのを妨げられることなしに言わしてくれた。
by bashkirtseff
| 2006-02-05 21:19
| 1876(17歳)
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