ああ! 何という暑さだろう! ああ! 何という物憂さだろう! 私は物憂いと言ったのは間違っていた。私みたいにすることのたくさんある者が物憂くなるはずはない。私は読んだり歌ったり絵を描いたり一人で考え事をしたりすることが出来るから少しも物憂くはない。私は落ち着かないでうら悲しいような心持ちである。
私の哀れむべき少女時代は食べることと家の中のいさかいごとだけで過ごさるべきであるか? 女は16から40までである。私は生涯の一月でも失うかと思うと身震いがする。 私が学問をしたり、ほかの女たちの知らないことを知ったり、有名な男の人たちの専門にしていることを何もかも知って、それで威張ったりしたところで何になるだろう? 私はそれらのものをいくらか知ってはいる。けれども実際は歴史とか文学とか物理学とかを、ただ読んでみるために、面白いものだけを読んでみるために勉強したのである。事実、私は何でも心をはめ込んでかかると面白くて真剣になる。 それならば私が学問をしたり考えたりするのは何の役に立つのだろう? 機知と美と声で恵まれたのはなぜだろう? カビが生えて腐れ死ぬためであろうか? いっそ私は無知で粗野に生まれついたならば幸福であったかもしれない。 一人として語るに足りる人がない。16の娘は家族だけで満足の出来るものではない。殊に私のような人間は。 もちろん祖父様は聡明(そうめい)であるけれども、年を取って目が見えなくて、年中食べ物の不平を言ったり、召し使いのトリフォンをしかりつけたりしているのが耐えられない。 母様は esbrit (気迫/エスプリ)をたくさん持っている。けれども知識に乏しく、世間というものを知らず、機転に欠けている。そうしていつも召し使いのことと私の健康のことと犬のことだけしか考えないから、頭が悪くなってしまっている。 叔母はやや良い。とりわけあまり知らない人に取っては良く思われる。 私は皆の年をもう書いたかしら。母様は健康さえ悪くなかったならばまだ美人と言えるだろう。叔母は2つ3つ年下であるけれども、2つ位は年上に見える。きれいではないけれども、背が高くて良い形をしてる。
by bashkirtseff
| 2005-09-05 23:40
| 1876(17歳)
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