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1876.05.23(Tue)──ニース

 私は一つのことを確実にしておかねばならぬ。私は恋しているのか、恋していないのか?
 私はこれまで壮麗と富とのことばかり考えていたから、ピエトロなぞは実に小さいお坊ちゃんとしか思えない。おお! H(アッシュ)…!
 仮に私の待っているものがあるとする! 何を待つのか! 百万長者の公爵、H…なにがし。でも、そんなことにならなかったら?
 私はA…を無理にも shic (気のきいた)な人のように考えて見ようとするが、そばに寄ってみると実際以上につまらなく思われる。
 今日は悲しい日であった! 私は空色の壁掛けを背景にしてコリニョンの肖像を始めて、下絵だけは出来た。私は自分でも彼女のためにも喜んでいる。彼女の座り方が大層良かったから。
 A…はまだ手紙を書く暇がないのだとは分かっているが、それでもなんだか不安である。
 今夜彼が恋しくてならぬ。私は彼を受け入れるべきであろうか? 恋の続く間はうまく行くだろうけれども、それから先は?
 私は平凡と言うことは、しゃくに障ってとてもたまらないだろうと心配している! 私は自分がその境遇の女主人公ででもあるがごとくに考えたり言ったりしている。ああ! 不幸の中の不幸よ! …… 待ちなさい! でも、何を待つのだろう? ……
 そうしてもし何者も来なかったら? なに! 私のような顔をしていたならば、何者かがきっと来る。その証拠には、私はまだ16にもならないのに、すでに2度半も伯爵夫人(コンテス)になっていられたはずである。その半と言うのはピエトロのために言っているのである。
by bashkirtseff | 2005-08-20 18:40 | 1876(17歳)
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