1878.07.07(Sun)──ゾーデン〔プロイセン南部山地の温泉村〕

 私たちは7時にパリをたってここへ来た。祖父様は私を引き留めたいと思っていた。けれども私はさよならを言った。すると祖父様は私に接吻をして、いきなり泣きだした。鼻をしわませて、口を開けて、目をつぶって、まるで子どものようにして泣いた。病気以前は祖父様に対して私は愛していなかった。けれども今では私は敬愛している。私は、祖父様が極めて零細なことにもどれだけの興味を示すか、またあんな恐るべき病気以来私たち皆をどれほど愛しているかをあなたに知らせてあげたいほどである。今1週間も長引いたならば、私は引き留められてしまったと思う。……常に感情的であることは、何という愚かさであろう! パリからゾーデンまで運ばれてきた人のことを想像してみて下さい。死の沈黙という言葉も、ゾーデンを支配している静けさをば表しきれない。私は大きな騒音によって人が混乱させられるように、この沈黙に混乱させられている。
 ここでは瞑想したり、書いたりする時間があるだろう。
 実に抑え付けられるような静けさである! 私には論文でもたくさん読めそうな気がする!
 ドクトル・チレニウスは今帰って行った。彼は私の病気に関して必要なことを聞いた。そうしてフランスの医者たちのように、「そうですか、それじゃ何でもありません。1週間もたったらば、治ってしまいますよ、マドモアゼル。」などとは言わなかった。
 明日から私は治療を始める。
 ここは樹木が美しく、空気が純粋で、景色が私の姿を引き立てる。パリでは私はただきれいなだけである。もし私がきれいだとしたならば。しかしここでは私は甘美にかつ詩的に見える。目もひときわ大きくなり、ほほもひときわ細ってきて。
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by bashkirtseff | 2008-11-20 12:15 | 1878(19歳)
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