1878.07.05(Fri)

 ロシアのボヘミア人たちの演奏会。──私は逃げ出さなかったので悪い印象を残した。私たちは6人であった。──叔母とヂナとエチエンヌとフィリッピニとM…とそうして私と。演奏会が済んで私たちは氷を食べに行って、1番きれいなボヘミアの娘たちを2人と子どもを2人食卓へ呼んで、氷を食べさせたりぶどう酒を飲ませたりした。ボヘミアの娘たちは若くて品行が良いので、話していても気持ちが良かった。皆良く仕込まれてあった。
 それから叔母はその手をエチエンヌに貸し、ヂナはフィリッピニに、私はM…に貸して、歩いて帰った。天気が良くて良い晩であったから。M…はもう機嫌を直していて、私に彼の愛を語った。いつもの通りである。私は彼を愛しないが、彼の愛の火は私の心を温めた。それを2年前まで私は愛と思い込んでいたのであった。
 彼は雄弁であった。その目には涙さえたたえた。家に近づくに従って私はあまり笑わなくなった。私の心は夜の美しさと愛の牧歌のために和らげられた。ああ! 愛されるのは何という喜ばしさだろう! 世界にこれほどの喜ばしさはない。……私はM…に愛されていることが良く分かった。それは誰にもまねの出来ないほどである。もし彼の愛が私の持っている金のためであるならば、彼はもっと以前に私に軽蔑された時に心をくじいたはずであった。その上、ヂナもある。ヂナとても私と同じくらいの金を持っていると思われている。そのほかにも結婚すべき娘たちはいくらもあるはずである。それにM…はこじきではない。どの意味から言っても彼は紳士である。彼は誰かを探し出しうるはずであった。これからとても探し出すであろう。
 M…は非常に優しい男である。別れる時に私が手を握らせたのは何と言っても私の落ち度であった。彼は私の手に接吻した。少なくともそれは私の責任であった。それだけ、気の毒にも、彼の方では真剣に私を愛しかつ敬している。私は子どもに聞くようなことを彼に聞いてみた。どうして私を愛するようになったか、いつから愛するようになったか? と。彼は私を初めて見た時から愛しているように思われる。「しかしこれは普通の愛ではありません。」彼は言った。「ほかの人は私にとってはただ女です。でもあなただけは世界中のすべてのものから飛び離れているように思われます。不思議な気持ちです。私はあなたに野師か道化役のように取り扱われていることも知っていれば、あなたには心というもののないことも知っています。それでも私はあなたを愛します。人は誰でも自分の愛する女の心に対しては賛美するものですが、私は、あなたを尊敬はしているけれども、あなたのその態度に同感は出来ません。」
 私は彼の言う言葉を黙って聞いていた。実際、愛の言葉は世界中のあらゆる芝居を見るよりも良いものであるから。もっとも自分が見られる場合は別である。そのときはまたそれが愛の一種の表明ともなる。あなたは今見られている。賛美されている。太陽の光の下で花のごとくに咲きほころびている。
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by bashkirtseff | 2008-11-19 12:32 | 1878(19歳)
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