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1878.05.04(Sat)

 私は何物においても──絵画においても、感情においても──単純なものが好きである。私の感情はこれまで単純であったことがない、またあり得ないのである。従前の経験によって疑惑と恐怖が生じている場合に単純な感情というものは存在し得ないから。単純な感情の存在し得るのは、ただ完全なる幸福の状態にあって、すべてのものに無知である時に限る。
 私は本質的に微細なことをほじくるような性質に生まれついている。1つは繊細な知覚の過度から来たもので、また1つは自己尊敬から来たもので、すなわち、間違った道をたどったり失敗したりしたくないので、初めから解剖してかかって真実を求めたいと思うのである。
 もし心がこれに悩まされる時は、その結果はただ疲れを示すのみである。甚だしくなるとそれは同時に突然の変化を呈して浮沈興亡に関することさえある。事実、全く平衡を失してしまうのである。けれども全体から言って、それでも全然の平凡に勝ること万々である。平凡は皆人の言うごとく退屈なものであるから。平凡は極端に繊細な陰影を駆逐する。この陰影があってこそ組織の微細に出来上がったほじくり好きな性質の人たちは喜び得るのである。この人たちは偉大なものにおいてすらも──否、荘厳なものにおいてすらも、微妙の点を要求する。この要求がもしなかったならば人は力強い色彩の豊富な効果をもたらすことは出来ないはずである。
 あなたは私がこんなことに関して多少の知識を持っていると思うかも知れません。私はただ自分の思う通りを書くだけで、誰からも知識を盗んだことはありません。
by bashkirtseff | 2008-11-11 11:05 | 1878(19歳)
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