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1877.11.30(Fri)

 私はとうとうマンドリンをアトリエに持ち込んだ。皆この優しみのある楽器を喜んだ。──これまで聴いたことのない人たちには殊にそうであった。夕方、休みの時間に私が弾いてアメリがピアノで伴奏をしていると、先生が入って来て立ち止まって聴いていた。
 彼がどんなに喜んでいたかをあなたにお見せしたいほどであった。
 ──なるほど私は今までマンドリンはギターみたいにきいきいかき鳴らすものだとばかり思っていましたが、良い音を出すものですね。こんな音の出るものだとは思いませんでした。そうして大層面白い形をしていますね! ああ! これからはマンドリンの悪口は言わないことにしましょう。ああ! 面白かったです。あなたがお笑いになるかも知れないが、確かに心をかきむしられるようですね。本当におかしなものだ!
 ああ! 気の毒な人、あなたもそれでは感じたと見えますね!
 この同じマンドリンは私がある夕方家で大勢の婦人紳士の集まりの前で弾いた時は少しも成功しなかった。それでも彼らは満足してもしなくても皆お世辞を言うような人たちばかりであった。
 輝かしい光と、白いイカ胸と、おしろいは、美観を壊すに十分である。これに反してアトリエの閉ざされたる場所と、夕方の静けさと、薄暗い階段と、疲労と──これらのものはすべてあなたをこの世の中で甘美な、不思議な、楽しい、心地よいものに対して感銘を受けさせるように仕向けるものである。
 私の仕事は恐ろしい仕事である。1日に8時間働いて、その上歩き回ってばかりいて、かつ仕事そのものが多大の慎重と知的努力を要する。およそ自分で何をしているかということを考えないで、すなわち、比較したり、回想したり、研究したりすることなしに、絵を描くほど愚かなことはない。けれどもそんな風にして描いていたら、少しも疲れるということはないだろう。
 昼間が長くなると共に、私はもう少したくさん仕事をしよう。早くイタリアへ帰りたい。
 私は成功せねばならぬ。
by bashkirtseff | 2008-03-10 23:00 | 1877(18歳)
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