1877.10.06(Sat)

 私はアトリエにいたから誰にも会わなかった。
 ──心配はありません、ジュリアンが言った、あなたは直に進歩します。
 そうして夕方の5時に、母親が向かえに来てくださると、ジュリアンはこんなことを言った。
 「私はお嬢さんの気まぐれで始めたことだと思っていましたが、勉強もなされば、決心もおありだし、それに才能も持っているように見受けます。こんな風で進んでいって、3カ月もたったらサロンに出せるようになるだろうと思います。」
 彼は私の絵を直すたびに、私が一人で描いたのかと必ず聞いた。
 私は自分が一人で描いたと言えると思っていた。弟子たちの誰に向かっても、裸体の研究はどんなにして始めたらばよいかと聞いた以外に、何にも教えてもらったことはなかったから。
 私は彼らの描き方に慣れてきた。
 アトリエではあらゆる差別というものがなくなってしまう。名前もなくなり、姓もなくなる。そうして母の娘でもなく、ただ自分自身となる。自分の前に芸術を持っている一個人となる。そうして芸術以外には何物もなくなる。実に幸福で、自由で、得意である。
 ついに私は久しく望んでいた状態になった。私はこれを実現することが出来ないのでどんなに長い間渇望していたか知れなかった。
 それはそうと! シャンゼリゼで私は誰に出会ったと思いますか?
 本当にまあ公爵H…が一人でフィアクル(つじ馬車)に乗っていたのである。きれいな、やや強壮な青年で、あかがね色の髪毛とかわいいひげを生やしていた人が、今では大きな赤らんだイギリス人に成長して小さい褐色のほほひげが耳のつけ元からほほの真ん中まで伸びている。
 4年の年月はしかし……人を変化させる。半時間の後には私はもう彼のことなどは考えてもいなかった。
 Sic transit gloria dusis.〔かく王者の光栄は過ぎ行くなり。〕
 何と私は以前は興奮したものであったろう!
[PR]
by bashkirtseff | 2007-07-21 17:50 | 1877(18歳)
<< 1877.10.08(Mon) 1877.10.05(Fri) >>