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日付なし

 私たちはこの家を立ち退こうとしている。私は惜しいような気がする。それは住み心地がよくってきれいな家だからではなく、住み慣れて古い友達のように思われるからである。私の好きな小さい書斎はもう見られなくなるのだろう。と思うと! この部屋の中で私はあの人のことを幾たび思ったであろう! 私の今寄っ掛かっているこのテーブルの上で、私は毎日毎日私の心の中で一番神聖な、一番楽しいことを書いてきた! 私はあの壁を眺めて、自分の目がそれを突き抜いて遠くの、遠くの先まで見渡すことが出来ればよいと思った! その壁紙の花模様の一つ一つに私はあの人を見た! 私はこの書斎の中でどれだけ多くの場面を想像してみたことだろう。そのどの場面でも、あの人が主要なrôle(ロール/役割)を演じていた。私はこの世の中ではもっとも単純なものからもっとも不思議なものに至るまで、この小さい部屋で私の考えなかったものは一つもないと言うような気がする。
by bashkirtseff | 2004-10-24 22:04 | 1873(14歳)
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