1877.04.06(Fri)──ナープル

 国王(ヴィクトリア・エマニエル2世/底本:「ヴィクトル・エマヌエル」)が前日お着きになって、この朝10時にプルス(プロイセン)王をお訪ねになった。お着きの折私は階段に立っていた。そうして私のすぐ前に来た時私は言った。
 ──ちょっとお言葉を賜りたいのでございますが。
 ──どんな用事です?
 ──用事と申しては何にもございません。ただ私の生涯の間に帝王の中での一番お優しい方にお物を申したことを誇りに致したいと思いまして。
 ──ご親切にありがとう。
 ──ただそれだけのお願いでございます。
 ──ありがとう。本当にありがとう。あなたは大層ご親切なお方です。
 国王はその両手で私の左手を握り締めた。それは1週間手袋をはめていた後のことであった。今こんなにして書いているのも手袋のせいである。1週間もたったら私は美しい爪になるだろう。
 あなたは私のことを何とおっしゃいますか? 私は別に恐れてはいませんでした。
 私はそんなことをしながらも、あらゆることを先見したけれども、自分に対する結果だけは予想しなかった。ほかの人ならばこんな大胆な行為をしてもただ喜ばしいだけで済んだだろうが、私にはかえって苦しみの種となった。私は不幸な運命を持っている。プルス王が国王の訪問を返しに行った後で、デエンホフが宮殿から帰ってきた。国王の随員が「あの若い娘は国王のお通りを妨げたり、変なことをしたものだ!」と言った。するとプルス王が、あの若いロシアの婦人たちは、王室という物に熱情を持っていて、皇帝のためならどんなことでもするが、純潔なことは天使のようだ、と言ってくれたそうだ。──ありがとう、豚肉屋(シャルキュツェ)さん!
 デエンホフはいろんなことを言って、最後に私たちに保証した。
 私は激しく興奮して、恐怖の念に駆られて、次第に我に返った。生まれてこのときほど恐ろしい思いをしたことはなかった。1時間で私は2年分も年を取った。国王に話しかけない人は何という幸運だろう!
 私たちは散歩に出た。公爵夫人マルグリイトとウンベエルが着いた。デエンホフは私たちの窓の向こう側に国王付きの紳士たちと一緒に立っていた。
 (私は手袋を脱いだ。)
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by bashkirtseff | 2006-08-24 20:10 | 1877(18歳)
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