私には幼少の時代がなかった。けれども私が幼少のころ住まっていた家は、懐かしいほどではないとしても、多少の興味はある。私はその地のすべての人、すべての物を知っている。父から息子へと代々私たちの家に仕えて白髪になっている召し使いたちは、私が成長したのを見て驚いている。私は他の先入見で心が毒されていなかったら、さまざまの思い出で楽しむことが出来たであろう。
皆は私のことを Mouche とか Mouka とか呼んだ。そうして私はロシア語のHを発音することが出来ないので、martyrsation 〔受難〕を意味するフランス語 Moucha のように言った。忌まわしい暗号である。 ニース以来初めてA…の夢を見た。 ドミニカと彼女の娘が私から出した手紙によって夕方到着した。私たちは長い間食堂に居残っていた。食堂は幕を取り去った入り口で客間に続いている。 私のアグリピイヌの服装は非常な成功であった。私は歌いながら歩き回ったので、いつも歌うときに生じる恐怖に打ち勝つことが出来た。 私はなぜ書かねばならぬのか? なぜ話さねばならぬのか? 読者は死ぬほど悩まされることであろう。……まあ我慢して下さい! シクストゥス5世(1521-1590/底本:「シクスト」)は豚飼いであった。そうしてシクストゥス5世は法王になった。 また元に戻ろう。 ロラはローマの空気を持って帰ったように思われる。私には今オペラかピンチオから帰ってきたような気持ちが想像された。 祖父様の大きな文庫には珍しい貴重な書物がいくらもある。私はロラと一緒に読むために2、3冊を選んだ。
by bashkirtseff
| 2006-03-04 20:14
| 1876(17歳)
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