ポルタヴァの一日は珍しかった。父は別にすることがないので私を連れて町を歩いた。私たちは幸せにも公園の真ん中でピエール大帝の柱を見た。
昨夜の真夜中に私たちはポルタヴァを立って、今日、火曜日にはカアルコフに来ている。旅行は面白かった。私たちは嵐の中を汽車で来たのである。 私はカアルコフの手前で公爵ミセルからの花束で目覚まされた。 カアルコフはガス灯のついた大きな町である。私たちの泊まっているオテルは「グランド」で、その名を良く説明している。主人はアンドリウと言って、それがまたあらゆる愉快を与えている。ここでは黄金的の青年が宿屋の主人と一緒に正餐(せいさん)を取ったり、昼食をしたり、酒を飲んだり、親密にしたりするが、それも亭主の方から言い出す訳ではない。私にはそれが不思議でならぬ。ここには奇妙な習慣があったものだ! 私は例の人を苦しめるフランス人の一人なるルイに髪を上げさせた。 それから茶になって、ショウガ入りの菓子が出た。 それから私は猛獣の見せ物を見に行った。気の毒な野獣たちがオリの中に閉じこめられているのが私に悲しい思いを起こさせた。 私は家族の最年少者なる伯父ニコラスに会った。彼は医学を勉強していると言うことであった。気の毒な伯父。彼は昔は私と人形を持って遊んだもので、私はけんかをしては良く彼の耳を引っ張った。 私は泣き出しそうになって彼に接吻した。 ──お入んなさい。私が言った。礼儀なんかいらないわ。父様はあなたが嫌いだけれども、私は大好きなのですもの。私はいつも同じよ。ただ少しばかり大きくなっただけだわ。ねえ、ニコラス、一緒にお昼を食べて下さいと私言えないのよ。だって一人きりでないのですもの。あなたの知らない人が大勢来ているのですから。でも明日きっとまたいらっしゃいな。 私は全く混乱して私たちの食堂へ入って行った。 ──おまえはそんなに心配しなくともよい。父が言った。おまえが呼びたければ、呼んでもよろしい。ただ私だけは席を外さねばなるまいがね。 ──私の父様。あなたは今日は不人情でいらっしゃるのね。もうそのことについては何にもおっしゃらなくともよござんす。 父の弱い心は私の激高の前にたじろいでしまった。そうしてそれ以上何事も言い出さなかった。
by bashkirtseff
| 2006-02-04 20:39
| 1876(17歳)
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