人気ブログランキング | 話題のタグを見る

1876.08.26(08.14)(Sat)

 田舎は私を殺しそうだ!
 驚くべき早さで私は父とポオルを2枚写生した。それに35分かかった。

Combien de femmes en ce monde
Ne pourraient pas en dire autant!

〔これと同じことを言いうる女も
 世間にはかなり多かろう!〕

 父は私の才能を多少ほらのように取っていたが、今ではようやくそれを認めて満足した。私はまた我を忘れてうれしくなった。なぜと言うに、絵を描くことが出来るのは私の目的の一つであるから、絵も描かねばこびも見せないで(こびには愛が続き、愛には結婚が続く)日を立てることは私に取っては心苦しい。読書は? 否! 実行は? 諾!
 今朝父が私の部屋に入って来て、当たり前のことを一つ二つ言って、やがてポオルが出て行くと、そこには沈黙が来た。その間私は父が何か言いたいことがあるのだと気がついた。私もそれを話したいのでわざと黙っていた。一つには、人がちゅうちょしたり当惑したりしているのを見るのは面白いから話しかけなかったのであった。
 ──ふむ! ……それで、……どう思うね? 父がついに言い出した。
 ──私? 何にも言いはしませんわ。
 ──ふむ! ……何とか言ったっけな……ふむ! ……おまえと一緒にローマへ行かないかと言ったね。……ふむ! ……それで、どんな風にしてだね?
 ──だって、当たり前にしてですわ。
 ──だがね……
 父はちゅうちょして私のはけやくしをいじっていた。
 ──だがね、私がおまえと一緒に行くことになると、……ふむ! ……そうすると母様が、行くのは嫌だと言うだろう? それで……母様が行くのは嫌だということになると……ふむ! ……さあどうしたものかな?
 ああ! ああ! 困った父上! そこですよ。あなたの方でちゅうちょなさるのだもの。……えらいわ! お立派ですこと!
 ──母様ですって? 母様はいらっしゃいますわ。
 ──ああ?
 ──母様は、もちろん、私の言うことなら何でもして下さるわ。母様は私のために生きているんですもの。
 父は目に見えて安心した様子で、母様がどんなにして日をたてているとか、その他さまざまなことを尋ねた。
 母様が私に対して父様には悪い性質があるとか、人をいじめたり押し付けたりする癖があるとか言って警戒したのは、どういう訳であっただろう? それは実際のことであった。
 それなら私はなぜ母様のようにいじめられたり押し付けられたりしないのだろう?
 それは父は母様よりは利口であるけれども、私ほど利口でないからである。
 その上、父は私に対して甚大の敬意を持っている。なぜと言うに、父はいつも私と議論をしては打ち負かされていたから。また私の話はロシアにうずもれている人にとっては興味に満ちており、他国の知識を味わおうとする人にも十分の知識を備えていたから。
 私はポルタヴァの社交界を見たいという私の希望を父に思い出させた。そうしてその返事によって父は自分が中心となっている社交団に私を紹介するつもりだと言うことが良く分かった。私はそれを特別に望んでいると言い出すと、そのとき父は私の望みをかなえてやると言って、私たちが訪問すべき婦人たちの名簿を作るのに公爵夫人の力を借らねばならぬと言い出した。
 ──そうしてマダム・M…、あの人を知っていらっしゃいますの? 私は聞いた。
 ──知っとるよ。だが、私はあまり訪ねない。あの人はごく静かに暮らしているからね。
 ──でも私はご一緒にあの人をお訪ねせねばなりませんわ。あの人は私がまだ子供のころからの知り合いで、母様のお友達ですもの。その上、あの人が私を知っていらしたころは、私はまだ形の出来上がらない小娘でしたから、私はその嫌な印象を取り消したいのです。
 ──よろしい、それじゃ行くことにしよう。……しかし、私がおまえだったら、行きたくないと思うね。
 ──なぜでしょう?
 ──それはね、……ふむ! ……こう思うかも知れないからな……
 ──どう思うと言うんでしょう?
 ──すべて何事によらず……
 ──どうぞ話して下さい。私は何でもはっきりしてもらいたいのです。遠回しは我慢が出来ません。
 ──あの人はおまえにもくろみがあると思うかも知れないよ。つまりあの人の息子さんに申し込んでもらいたいのだと思うかも知れないよ。
 ──グリツ・M…が? おお! 否、父様。あの人はそんなこと考えはしませんわ。それにM…はもちろん立派な若い青年で、私の子供のときからのお友達で、私は好きな人ではありますが、でもあの人と結婚するなんて! 否、父様、あの人は私が夫にしたいような人ではありません。どうぞ心配しないで下さいまし。
by bashkirtseff | 2005-12-31 17:05 | 1876(17歳)
<< 日付なし 1876.08.25(08.1... >>