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日付なし

 アイトキュウネンにおいての生活は面白い。私は年少のショコラの教育に一生懸命になっている。彼は道義的にも哲学的にも進みかけている。
 今夜私は聖書の話を彼に読ませた。彼はユダ(イスカリオテのユダ、「馬大傳」26、14)がイエスを裏切ろうとするところになると、感情的な口ぶりでそのユダが銀30で主を売り、兵士たちに接吻によって彼を教えたことを私に話し聞かせた。
 ──ショコラ、私のお友達、私は言った、おまえさんも30フランなら私を敵に売るだろう?
 ──否、ショコラはうつむいて言った。
 ──60フランなら?
 ──だめです。
 ──120フランなら?
 ──だめです。
 ──じゃ、1000フランなら? 私はさらに言った。
 ──否、否、ショコラは言った。猿のような指をテーブルの端でもじもじさせながら、うつむいてその両足をばたばたさせながら。
 ──じゃ、ショコラ、誰かがおまえさんに1万フランあげると言ったら? 私はやさしくまた聞いた。
 ──だめです。
 ──いい子だね! でも10万フランあげると言ったら? 私はいま一度聞いてみた。私の心持ちをさっぱりさせておくために。
 ──否、ショコラはそう言ったが、声の調子を低めて、もっと出さねば……
 ──何だって?
 ──もっと出さねばだめです。
 ──それじゃ、良い子や、おっしゃい、どのくらいならいいの、正直な悪者さん! じゃ200万、300万、400万?
 ──5、6百万。
 ──でもね、私が叫んだ、30フランで裏切るのだって600万フランで裏切るのだって同じことじゃないの?
 ──ああ、否、その金を皆あなたさまにあげるのですもの。……そうしたら誰も害を加える者はないでしょう。
 そこで私は道義上のことは皆忘れてしまい、長いすの上に倒れて笑っていると、ショコラもその結果に大層満足して次の部屋へ引き下がった。
 私の食事は誰がこしらえると思いますか? アマリアです。
 私は彼女にチキンを2羽焼かせなかったら飢え死にをしたかも知れなかった。のどの渇きに対しては、とても飲めそうもないシャトー・ラローズ(底本:「シャトオ・ラロオズ」)を持ってきた。
 いや、実に、おかしい! アイトキュウネンというところは。今にロシアもどんなところだということが分かるだろう。
by bashkirtseff | 2005-10-05 01:11 | 1876(17歳)
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