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1876.06.08(Thu)

 哲学の書は私を驚かせる。それは気を転倒させるような想像の産物である。それをたくさん読んだならばついには慣れるかも知れないが、今では私を気絶させそうである。
 フーリエ(フランスの空想家的社会主義者、1772-1837/(底本:「フウリエ」))をあなたはどう思いますか? それからジュフロワ(フランスの哲学者、1796-1842/(底本:「ジュフロイ」))の説を見てご覧なさい。「霊魂は感覚に圧迫されると外へ出て、対象を持ち帰ってその中に隠れる。」
 これは驚くべきであるが、しかし無意義である。読書欲にかかると私は気違いのようになって、いくら読んでも読み足りないような気持ちになる。私は何もかも知りたい。私の頭は破裂しそうになって来る。それから身の回りは灰と混沌(こんとん)になってしまう。
 私は早くホラティウスを読んでしまいたいので熱病にかかったようになっている。
 おお! 考えてみると、世間には選ばれた人たちがあって、好き勝手に駆け回りながら着飾ったり踊ったり雑談したり笑ったり恋をしたり、一口で言えば、俗界のあらゆる快楽に浸っている間に、私はこのニースで腐食しつつあるのだ!
 私は人間がただ一度しか生きていないものだということを思い出さないでいる間は、大概のところであきらめをつけている。でも、しかし、人間は一度しか生きていないもので、人生は短いものだと思い付くとどうでしょう!
 それに思い及ぶと、私は何かにつかれた人のようになって、頭は絶望でうだってしまう。
 人生はただ一度しか生きていない! そうして私はこの貴重な人生を家に隠れて、誰にも会わないで消費している。
 人生はただ一度しか生きていない! そうして私の生涯は損なわれている!
 人生はただ一度しか生きていない! そうして私は生涯をつまらなく空費している。月日は毎日毎日過ぎ去って、決して帰って来るときとてはなく、そうして命は縮まっていく。
 人生はただ一度しか生きていない! そうして、すでに短いこの人生が、さらに短くされ、損なわれ、盗まれるとしたならば、しかも、浅ましいことのために盗まれるとしたならば?
 おお! 神様!
by bashkirtseff | 2005-08-28 18:07 | 1876(17歳)
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