1884.07.21(Mon)

 私は自分の絵の背景になるような一隅を探し求めながら、4時間以上もさまよい歩いた。それは町である。それは場末の並木街である。しかしなお選択する必要がある。場末の並木街にある1つの公衆腰掛けは、門番とか、別当とか、乳母とか、遊び人などにより他には腰をかけないシャンゼリゼの腰掛けと甚だしく異なった性質を持っていることは明らかである。
 そこには性格の研究もなく、魂もなく、戯曲もなく、特別な場合を除けば、ただかかしみたいな人間があるきりである。
 しかしその腰掛けの縁に落伍者がかけているのは何という詩的だろう。そこでは人間は真実であり、そこではシェイクスピアの書いた人間になる。
 そうして私は今せっかく発見したこの宝が、私から逃げてしまいはしないかと、狂せんばかり不安になっている! もし私にそれが描けなかったら、あるいはもしも時が、もしも……
 聞いてください。もし私に才能がないなら、私をあざ笑う者は天である。なぜなら、天は私に天才ある芸術家たちのあらゆる苦悩を科刑しているから。……ああ!
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by bashkirtseff | 2012-05-19 16:32 | 1884(25歳)
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