私は私の画布を小刀で裂いてしまわないためには無理にも自分を抑えつけねばならなかった。思うように描けたところは一隅だってない。
そうしてまだ手が1本残っている! でもその手が出来ても、まだ修正すべきところはいくらもある!!! ああ惨め、呪われ! もう3月、3月。 否!!! 私は誰もまだ見たことのないような一かごのイチゴをこしらえ立てて喜んでいる。私は茎ごとそのまま、房になった実を、手づから摘んだ。その中には色合いを愛でて青い実すら交えておいた。 そうして葉も! ……要するに、誰でも不慣れな物事をするときのようにして、あらゆる手厚さと嬌艶の趣をこらして、1人の芸術家によって摘み取られた驚くべきイチゴ。 そうしてそれに赤いスグリのよくなった一枝を添える。 私はこうしてセーブルの町々を通り抜けた。そうして私は汽車の中ではかごをひざの上に載せた。ただしその一粒さえ傷も痛みもなかったイチゴを私の体温でしぼませないように、その下を風が通るために、少しく宙に浮かせて持っているだけの十分の注意をして。 ロザリは笑っていた。──もしかお家の方に見つかったらどうでございましょう、マドモアゼル! そんなことがあり得るだろうか! ──でもこれだけのことに値しているのは彼の絵のせいである。──値しないのは彼の顔のせいではない。彼の絵はあらゆる敬愛に値する。…… ──するとイチゴを食べるのは彼の絵だということになるだろう?
by bashkirtseff
| 2012-05-19 13:44
| 1884(25歳)
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