1883.12.01(Sat)

 私はだまされる役目を演じているのではあるまいか? 私の最も美しかった年月を何人か私に返してくれるであろう……おそらくは空費してしまった美しい年月を!
 でも卑俗な私のこうした疑問に対する良い答えがある。すなわち、私は実際、より良きことをしようとしても何一つそうしたことは出来なかった。これ以外のどのような場所へか行って、そうして他の人たちみたいに暮らしたからといっても、私はあまりに苦しむことばかりしていたに相違ない。……それにそうあっては、私にある優越を付与しているこの道徳的な発達には、到達することが出来なかったかも知れない。……私にとってはそれはかなり厄介なものではあったけれども。スタンダールでも少なくとも彼を理解することの出来る一人か二人の人間は知っていた。然るに私はと言えば、その点がたまらない。すべての者が平凡である。そうして私が才知ある人たちだと思って付き合っていた人たちも、私にはばかとしか思えない。私は不可解な人間と呼ばれているような人間になってしまったというのだろうか? 否。でも、要するに……そうは言っても、私は、自分が出来もしないことを出来るように人から思われたりするとき、驚かされるのももっともであるし、また自分ではそれが不満足であるのももっともであると思う。そうしてそんな事柄は私の威厳や、私のデリカシーや、私の優美さをすら犯すかも知れないのだけれども。……
 それでは、その人の前に立ったら私は何でも言えるような、すっかり私を理解してくれるような何人があるだろう? ……何でも理解してくれて、そうしてその人の言説のうちに私の思想を認めることの出来るような? ……ああ、私の親愛なるあなた、それこそ恋かも知れませんね。
 あるいはそうでしょう。しかし、そこまでは行かずに、ただ単に理知的によく私を理解してくれて、その人とならば打ち解けて話の出来る、それだけのことでもかなりに愉快かも知れない。……ところで、私はそうした人たちを知っていない。わずかにそのただ一人がジュリアンであった。その彼もだんだんと打ち解けられなくなってきたように思われる。……芸術上の問題についてはことにそうであるが、彼が的の反れたあの間断なき意地の悪い批評を始め出すと、歯が浮いてさえ来る。彼は私がはっきりものを見ていることと、私がついには目的を達しようと欲していることをしか分かっていてくれない。彼は私が私自らにおぼれているものと思い込んでいる。……
 とは言え、……要するに、彼はそれでも私の時折の相談相手ではある。感情の絶対の対偶ということは、恋するのでない限り、あり得ない。してみると奇跡をなすものは恋である。……しかし、それとは反対に、この反対の対偶こそ恋を生ませるものではあるまいか? ──妹なる魂、──私に言わせれば、よく乱用されるこの偶像こそはすこぶる正しいと思う。それなら、そうした魂はどこにあるのだろう? 耳の端をすら見ることの出来ないような人ででもあるのかしら。……
 一語さえも、一瞥見さえも不調和であってはならないのであろう……私の……思い描いている概念と……。と言えばとて、何も私は、見いだすことの出来ないような完全さや人間らしさをちょっとも持っていないような人間を要求しているのではない。いや、私はその人の瑕瑾(かきん)が私には興味ある瑕瑾と思われ、そうして私の目にその人の値打ちを損なわせないことを求めているのである。その人は私の夢と合致する。と言っても、不可能な神性を夢見ているというような平凡な夢ではない。要するに、その人のうちにある一切のものが私の気に入ることが必要である。……そうして私はたちまちにして愚かしいとか、平凡であるとか、不十分であるとか、幼稚であるとか、意地悪であるとか、虚偽であるとか、あるいは利己的であるとか、いったような、そうした何らかの片隅を見いだすようなことがあってはならない。そうした汚点の一つと言えども決してあってはならない。もしそうした汚点のほんの小さなものでもあったら、すべてを打ち壊してしまうに足りるから。
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by bashkirtseff | 2010-11-29 22:44 | 1883(24歳)
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