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1883.05.24(Thu)

 私は受賞していた! ようよう安心もすれば落ち着きもした。私は幸福だとは言わない。満足だとは言えるかも知れないが。……
 私は新聞でそれと知ったのである。あの人たちは手数でもちょっと手紙で知らせるというだけのこともしてくれなかった。
 まあ聞いてください。──私は「何事も心配しているようには、また望んでいるようにはならない」ということを信じています。

 私はどうなったのだろうかと思っていた。受賞したのだろうか、受賞しなかったのだろうかと。その結果がどうなのかを私は知っている。なぜと言うに、一昨日と昨夜は、私は受賞しないものと思い込んでいた。もし受賞しているとすれば、もちろん私はうれしいであろうし、それが……どんなであるだろうかも完全に想像することが出来る。では、どうなるだろう? どっちが不意打ちを食わせるだろう? どっちの場合にびっくりするだろう? ──受賞していないのに受賞していると思うのと、受賞しているのに受賞していないと思うのと?
 9時半に、私たちはサロンへ行く。そうして出掛けようとして門のところで、私におめでとうを言いに来たボジダルが、彼の父と連れだって晴れ晴れしい顔をして訪ねてきたのに出会う。──私たちはこの若者をも連れて行く。──で、私は会場について、私の絵を見る。私の絵は位置が変わって、チューリップを描いた大きな画布の上の方の、ずっと高いところに移されていた。そうしてその大きな画布というは、めちゃくちゃな色彩をぬたくって、9流どころのある画家の署名がしてあった。そのとき「表彰」の表記はイルマに貼られたのかもしれないという予感が可能性を帯びてきたので、私は走っていって見る。ない。
 私はとうとうパステルのところまで行って、そこで見いだす。
 私は一足にジュリアンの家まで行って、半時間以上口もきけなかった。──私は泣きだしそうだった。彼は非常に驚いていた。どうしたと言うのです! だって、サロンが開かれて以来、私の絵が出るようになって以来、パステルなんかもう問題ではなかった。それに彼は私が位置を移されて、なげしの上へ押し上げるかもしれないことも承知だったのだ。……
 要するに、他の部門に属するものにもなされたにせよ、受賞は、こうした昇天をもかばってくれているものらしい! 彼は、コットと、ルフェーヴルと、トニーとに至急便を出して、説き伏せてやろうというだけの同情にはあふれているように私には見える。と言って、それもかなり遅まきな話ではある。
 パステルに褒状、愚なことである。それもまあ良い! しかし私の絵を天井に祭り上げるとは! 私は自分の部屋で1人きりになってこの日記を書きながら、それを思うと泣かされている。
 パステルに褒状、それはごまかしであり、愚鈍であり、苦悶である。しかし絵の位置を変えるというに至っては……
 神も照覧あれ、また正直な人たちをすべて証人に立てて言う。昨年は、私のにはるか及ばないようなものに第2等賞牌が与えられた。そうして今年もやっぱりそうだと、誰でも、あなたにそう言うでしょう。私が腹を立てるのも無理はないと思ってくれるでしょう。
 それほどの不信を、それほどの術数を、私は許せない!
 私にはあの選者の台所なるものが分からない。
 屈辱だ。いつになったら私もほかの人たちのように無節操になれ、腹も立たなくなるだろう?
 要するに、私は真実の才能がひとりでに現れることをば認める。妥協、しかしそれも最初に波に乗る場合には必要だろう。
 バスティアン・ルパージュですら最初のうちはその師ムッシュ・カバネルに支持されていた。
もし弟子に望みがあると見たら、師たる者は彼の頭をしばらくは水上に支えていてやるべきである。もし彼が浮かべるようになれば、彼は何者かであろう。でなかったら、駄目である。おお! 私はついにはやり遂げて見せよう。
 ただ立ち遅れたというばかりだ。と言って、私の過ちからではない。
 一種の優越を利用しないということが不正のごとく私を腹立たせている!

 ボジダルとヂナと事務所へ抗議を申し込みに行った。結局は無益だったけれども。──それでボジダルは問題の掲示を引きはがして、「表彰」と書いてある張り札を私のところへ持ってきた。私は早速それをココのしっぽに結びつけてやると、ココはびっくりして動こうともしなかった。──要するに、私は心慰まず、腹立たしく、不幸せである。天井へ上げられた絵を考えると、断腸の思いがする。でも私の絶望は、私を取り巻いている人たちにとっては、面白い見ものだった。私はいつも見せ物になっている。そうして泣きたいような心持ちになってくると、私はばかなことばかり言ってしまう。他人を退屈させまいと思ったら、いつも慰みものになり、新奇なものにならねばならぬ。……私がそうだと世間は言うかも知れない。私はそうありたいと思っているから。……
by bashkirtseff | 2010-07-26 08:01 | 1883(24歳)
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