1883.05.22(Tue)

 私は7時半まで仕事をする。物音がするたびに、鈴が鳴るたびに、ココがほえるたびに、私の魂はかかとへ行ってしまう。この表現はいかにも正しい! こうした表現法はロシアにもある。──夜の9時になっても何の音沙汰もない。──それでさまざまの感懐! もし私が何にも取れていないとすれば、実にがっかりしてしまう。──皆がアトリエであのように言っていたのに。そうしてジュリアンも、またルフェーヴルも、またトニーも、彼らの間では、異口同音に、私が賞品を取らないなぞとはあり得べからざることだと言っていたのに。──そうだとすると、全く親切な仕打ちとは言えない。電報を打ってくれても良さそうなものだのに。良い知らせは早く聞こえない。
 もし……もし私が何らかの賞を得ているとすれば、今ごろは知れているはずだ。それに?
 それを思うと少し頭が痛くなる。
 さらばと言って、これがそれほど重大事だというのではない。でも、あんなにまで言われていたのに……それに、不確かでいるのは何につけても嫌なことだ。
 だから心臓が動悸打ち、動悸打つ。……みすぼらしい人生! すべては何物でもない。……と言うのはなぜか? 要するに死に到達するためだから!
 マダム・X…は残酷な苦しみを続けた後で、涙に暮れた家族に取り巻かれて亡くなった。ムッシュ・Z…は××にある自分の屋敷で急に亡くなった。このようなはかない最期をどうして予想することが出来たろう。……さらに言えば、マダム・Y…は、家族の優しい看護のかいもなく亡くなった。彼女は99歳だった。……
 そうして何者もこの死から逃れられない! ……そうして銘々がこのようにして終わりを告げてしまう。
 終わりを告げる! もうそれっきりになって終わりを告げる。そこに恐怖がある。永遠に生きるに足りるだけの天才を持ちたい。……でなかったら、熱病にかかったような手で、さまざまな愚にもつかぬことを書くことだ。あんなみすぼらしい表彰の沙汰すらこんなに待たれるのだから。
 一通の手紙が届いたので、私の心臓は止まってしまった。それは胴囲の注文についてのドウセからの手紙だった。
 私は鎮静剤として、少量のアヘンのシロップをまた飲もう。こうした動揺を見たら、私は自分の聖女たちを夢見ているところだと人は言うかも知れない。その絵は輪郭だけ出来た。私はそれの制作にかかっていたり、または制作のことを考えたりしていると、ちょうど今夜のような状態になってしまう。
 何事でもひたすらに没頭するのは不可能である! ……
 9時15分だ。──慎重なジュリアンがあれほどまでに言い切っていたのに、通達が来ないとはあり得べからざることだ! ……と言って、この沈黙?
 これは足をやられたようなものだ。ちょうど体中へ燃え広がってきて、やがてはほほまでも焼けただれてしまう炎みたようのものだ。……私は悪い夢を見ている。……
 9時が29分過ぎたばかりだ。
 ジュリアンは来るつもりでいるのかも知れない。彼が来るのだとすれば、彼は6時ころには知ったろうから、晩さんを共にするように来るであろう。しかるに、何の音沙汰もない?
 私は駄目だったと信じだした。とは言っても、そんなはずではなかった。しかし今となっては、かなりそんなはずだったというわけになる。
 私は馬車の気配をうかがっている。どれも皆通り過ぎてしまう。……おお! 今となってはもうあまりに遅い。
 絵には名誉賞はない。彫刻では、それを得たのはダルウのみである。
 それが私にとって何だ?
 私だったら名誉賞はバスティアンに与えたかも知れない? 否。彼はあの「村の恋」以上のものを描きうる。従って彼はそれに値しない。彼の崇高な「ジャンヌ・ダルク」へなら名誉賞を与えられたかも知れない。その背景は3年越し私を嫌がらせているけれども。
 あれなら私はいま一度見ても良い。
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by bashkirtseff | 2010-07-24 08:05 | 1883(24歳)
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