1882.11.16(Thu)

 私はある病院の外科医をしている有名な医者のところへ行ってきた。──人知れずそっと着替えをして。それは彼にいいかげんなことを言われないために。
 おお! 彼は愛想の良い人ではなかった。彼は率直に言った。私は決して全治しないと。けれども耳の聞こえないのが耐えられる程度までには良くなるだろうと言った。それは実際外観上はすでに良くなっている。けれども私は彼の処方に従わなければ耳の病気は悪くなるだろうと思った。彼はまた私を1人の小さい医者に紹介した。その人が2カ月間私を診察することになった。なぜと言うに、彼には1週2度ずつしか私を見る時間はなかったから。
 私は初めて勇を鼓して、「ムッシュ・私はつんぼになりかけています」と言った。それまでは私はいつも「良く聞こえます」とか、「耳が詰まっているのでしょう」とか言っていた。この時初めて私はその恐ろしいことを言った。すると医者は外科医の残酷さを持って私に答えたのであった。
 私は夢に現れたこの不幸が、これ以上のものではないようにと希望している。けれども私たちは神が彼の卑しいしもべのためにとっておいた煩わしさでこれから先悩まされたくはない。今私はもう半分方つんぼになっている。
 けれども医者はきっと良くなるだろうと言った。私は家族の者に取り囲まれて世話をしてもらったり、力を貸してもらったりしている間は耐えられるが、もし1人きりになって、知らぬ人たちの中に混じるようになったら、どうだろう!
 そうしてもし心の曲がった乱暴な夫を持つようなことになったらどうだろう? ……もしこのことが私の持つべきある大きな幸運の代償として支払わるべき値であるとしたら! しかし……なぜ神は善良であるとか、神は正義であるとか言われるのだろう?
 なぜ神は悩みを引き起こしたりするのか? もし世界を作ったのが神であるならば、なぜ彼は悪と悩みと不正を作ったのであろう?
 それにしても私の耳は治らないだろう。……耐えられる程度にはなるだろうが、それでも私と世界の他の者の間には1つの膜があるだろう。枝を鳴らす風、水のささやき、窓を打つ雨、……低い調子の話し声……私はそういったようなものを1つも聞くことが出来なくなるだろう! K…の家族と一緒になっても私は一度も困ったことはなかった。また食卓でも困ったことはなかった。対話が調子づいている間は少しも不幸を感じることはなかった。けれども芝居を見ているとせりふの大部分は分からなかった。ちょうど私のモデルの言うことが分からないと同じように。──しかもモデルたちは大きな声を立てないように気を付けているから、ひときわ静かであるにもかかわらず。実はこのことは過去1年間ある程度まで私は予想していたはずではなかったか? ……私はもうそれには慣れているはずであった。慣れてはいるけれどもやはり恐ろしいことである。
 私は私にとって大切なもの、私の幸福にとって1番必要なものを破壊された。……
 もしここまででそれがとどまってくれたら!
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by bashkirtseff | 2010-06-06 21:40 | 1882(23歳)
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