1881.10.30(Sun)

 今日は終日ジタアヌ(ジプシー(底本:「ジプシ」))と暮らしたが、しかしまだ何にも出来ない。氷のように寒くて、顔は凍てついたような気持ちである。そうして画布はほこりと砂で覆われてしまった。要するに、私はなんにも出来なかった。しかしこの土地は美術家にとっては実に無尽蔵の鉱脈である。誰でもまず位置を決めたり群れ方を直したり、光線と陰影の効果を調べたりするのに丸一日はかかる。ジプシーは外国人に対して非常に愛想が良いのは、エスパアニュ人に軽蔑されているからでもある。私は2、3カ月間毎日ここへ写生に来たいと思う。まだしなければならぬことがたくさん残っている。ジプシーの典型には私は魅せられている。彼らの挙動や姿勢には、自然な、しかし珍しい美が現れている。どんな立派な絵でもここでは描けるだろう。ロシアで言われているごとく、あなたの目はあらゆる方角へ逃げ出してしまいます。すべてのものが皆一種の絵になっている。なぜ早く来なかったかと思うときちがいになりそうだけれども最上の気乗りがしているにも関わらず、仕事をすることが不可能である。雪に覆われた山々から吹き下ろす風が耐えられないほどに鋭い。それにしても、何という美しさだろう! 何という美しさだろう! 私が仕事を始めようとすると、皆が周りに集まって、山の横腹の自然の段々の上に群がってしまった。あなたはそれが面白く見えるか想像できるでしょう。私は人が周りにたかってくるとたまらなく悩まされるが、しかし彼らの好奇心は非常に同情的である。エスパアニュ人は怠け者だから私の絵をのぞきに来たり近寄ったりはしないで、大部分は皆私の後ろに2時間も3時間も立っている。その上私の描いているところは昔の町跡であるから、たくさんな画家が来ている。
 グラナダはセヴィルが俗であると同じ程度に芸術的であり、また絵画的である。もっとも、有名な大学を誇りにはしているけれども、ほとんどすべてのグラナダの市街は、画家を喜ばせるものばかりである。
 あなたはどちらへ行っても幻惑され、引きつけられる。立ち止まったところのどこで描きだしても、きっと良い絵が出来るでしょう。
 私は来年8月から9月、10月半ばまでここに来たいと思っている。
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by bashkirtseff | 2010-02-21 19:14 | 1881(22歳)
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