1880.05.07(Fri)

 マダム・ガヴィニが今日また訪ねてきて、母に私が疲れすぎると話した。それは実際であるが、しかし絵のために疲れるのではない。私は10時か11時に寝たなら疲れるはずはないのであるが、毎晩1時まで起きていて朝は7時に目を覚ますのである。
 昨夜はあのお人よしのS…のおかげであった。私が書き物をしていると彼が話しに来た。それから彼は叔母とトランプをした。それから私は彼の相手になって、愛の言葉を少し聞いてやった。彼は「お休みなさい」を20度も私に言った。それで20度も私は彼にお帰りなさいと言った。すると20度も彼は私の手に接吻させて下さいと言った。私は笑いだしたが最後に言った。「ようござんす。接吻したけりゃ勝手におしなさい。」すると彼は私の手に接吻した。私は残念ながらその接吻は私に愉快を与えたことを白状しなければならぬ。けれどもそれは相手のために愉快を与えられたのではなくて、さまざまの理由があった。要するに、しかし、女は女だからである。今朝になっても私はその接吻をこの手の上に感じることが出来る。なぜと言うに、それは普通の礼儀の接吻ではなかったから。
 おお、若い娘!
 私はあの鼻の平ったい青年を愛しているのだとあなたは思いますか? 否、そんなことは思わないでしょう? 考えてみると、あのA…の事件だって、これ以上には出なかったのである。私はどうかして愛したいと努めた。大僧正たちも法王も力を添えてくれた。……私は興奮した。けれども、愛であったか? ああ! とんでもない。さて今では私も15ではなく、またあのときほど愚かでもないから、私は少しも誇張することなしに事件をあるがままに話しうる。
 この手の上の接吻は、それが私に愉快を与えたために、ことに私は不愉快でならぬ。女にはなるべきものではない。私はS…には冷淡に対しようと思っていた。しかるに彼は善良な人間で、単純な性質であるから、そんな芝居をしたことは私の愚であった。つまらないことであった。彼をばアレクシス・B…に対するがごとく取り扱った方が良かった。これからはそうするつもりである。今夜はヂナと彼と私と3人で11時まで掛けていて、S…と私が詩を読んだり、ラテンを訳したりすると、ヂナが聞き手であった。
 私はこの青年は非常に良くできて、少なくとも私より知識のあるのを見て驚いた。私は知っていたものを大概忘れてしまった。ところが彼は文学士の学位を取るための勉強をまだ完全に覚えている。私は彼がそれほど教育があろうとは思わなかった。私は彼を友達にしたい。……否、それがために私は彼を好ましく思うのではない。ただ友達にしようと思うのみである。
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by bashkirtseff | 2009-01-16 14:37 | 1880(21歳)
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