1880.04.26(Mon)

 私はアトリエの席がなくなった。ある美しい1人のアメリカ婦人が、私に絵をもらうという条件で私の代わりに座ることになった。
 彼女の小さい顔が私には気に入った。それはほとんど絵になりそうである。私はある巧妙な整頓を夢想している。その娘は親切にも私の代わりに座ってあげようと言ってくれた。そうして後で私の描く1枚の小さい絵で、満足すると言った。
 もし私の絵がサロンに出て行かなかったならば生徒たちは私の代わりに座ってくれることの信頼を持たなかったかも知れない。
 ジュリアンはトニーが私の絵に手を入れたと思っている。そうして、トニーが何をしたかはあなたは記憶していられるはずです。調子が暗すぎたから、彼は光を少し入れてくれた。けれども私はすっかりそれを塗り直した。手については、彼は絵の具を置きながら形を変えた。けれども最後の前の日に私は指を短くして、それがために何もかも塗り直さなければならなくなった。だから、彼の描いた形は少しも残っていない。彼はただどうすればよいかを言ってくれただけである。私は実際忠実にその通りにした。それで要するに誇るべきものはひとつもない。
 今夜私たちはマダム・Pの所へ行った。ある退職長官の家族である。彼らはシャンゼリゼに面して1つきり窓を持っていない長い狭い廊下のあるオテル・ダルカンタラに泊まっている。このオテルはシャンゼリゼに接した、細長い地面のために奇態な建て方がしてあって、廊下は狭いけれども祭日には便利である。愛想の良い親切な人たちではあるが、奇妙な仲間で、もっとも古風な服装をしていた。有名な人は誰も来ていなかった。私は眠たくなり、腹立たしくなった。そうして私の親愛なる母は立ち上がって、良く笑うチリ人かメキシコ人かに私を紹介した。彼はいつも歯を出して笑いながら、顔面けいれんで、しわを寄せていたのみならず、大きなはち切れるような顔をしていた。彼は2700万の財産を持っている。それで母の考えは……。この男と結婚するというのか、ほとんど鼻のないようなこの男と。おお、考えても恐ろしい! 私は年寄りや醜い男とは結婚しようとは思わない。どちらも同じことで化け物である。幾100万の金と言えども、こんな滑稽な人間と一緒ならば何の役に立つか? 私たちの知っている人は数人いたけれども、おお、何という退屈なことだろう。歌う時に顔をゆがめたり歯をむきだしたりする素人や、耳のないヴァイオリニストや、得意そうに部屋中を見回して片手をピアノの上に置きながらシューベルトのセレナードを歌いだした好男子や、……実に滑稽である! 私には紳士がどうしてこんな立派な夜会の席で低級な喜劇役者のまねをするのだか、理解することが出来ない。婦人たちは汚く見える黄色い粉を髪に振りかけて頭飾りをしているのが、例えば布団をかぶっているかあるいはわらをかぶっているかのように思われる。何というみっともないことだろう! 何というばかばかしいことだろう!!
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by bashkirtseff | 2009-01-14 16:33 | 1880(21歳)
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