1880.03.12(Fri)

 ジュリアンが絵を見に来た。彼はふらし天の机と書物と花が大層良く出来ていると言った。その他のものも良くなるだろう。全体が生気があって、大胆で、ほとんど獣的といったくらいだと彼は言った。今朝は泣いていた私が、6時には慰められて自信を持って帰ってきた。帰ってみると母は2つの電報を前に置いて涙を出していた。ひとつは父からであった。
 もし母が明日立つことになれば、ヂナが一緒に行くはずである。私はあと7日きりない。モデルはとても見つかりそうもない。仮に明日になって見つかったところで、あと6日きりない。だから到底不可能である。
 それに私は行き詰まっている。私は当惑して絶望して泣いていることをもあなたに隠さないでおきましょう。ひとつの思い付きが浮かんで、ある人気に投ずるような題目を選んだならば、仕上げは不完全でも効果があるかも知れない。そうしたならば来年になっても期待されそうもないものが今年得られるかも知れないというような気がした。しかるに今では何もかも駄目となった。仕事は半端のままで、今までの労力は報いられそうもない。これは不幸なことと言わねばならぬ。私のことをばあなたの好きな通りに思って下さい。ただしポオルのロマンスは私の心を静かにしてくれるけれども、私のこの悲しみは私をいらいらさせ、かつ絶望させる。私はそれをどんなふうに説明したらばよいか分からない。それには我欲以上のあるものがある。仮にそれが我欲に過ぎないとしても私は十分に不幸で見捨てられた状態にあると言わねばならぬ。
 それで私の夢は今年は皆消えてしまった。また待つのか? ……まる1年の月日を。それがわずかだとあなたは思いますか? 私には毎日の苦しみの原因が数多くある。私は絵において慰めを見いだすだろうと思っていた。ところがこんな結果になったのである。
 そうして、私の哀れな絵は犠牲にされ、私の望みは砕かれ、私の得べきはずであった楽しみは失われて、それでロシアにいるポオルと彼の fiancée〔いいなずけの娘〕は慰められ救われるであろうか?
 犠牲と迷惑は、それが不必要の場合には、3倍も痛ましいものである。
 今ではそれが皆駄目になってしまった。彼らは結局結婚するであろう。1月早いか遅いかは重大ではない。またもし結婚しないことになれば2人のためにはあるいは幸福であるかも知れない。要するにここにいる私にとっては、何よりも敏速ということが必要である。1週間遅れれば、私は1年遅れるのである。でも私にどうすることが出来るか? こう言うとおかしいかも知れないが、私は皇太子のことで泣いたように今も気がくじけて泣いている。
 人は私がポオルのことで取り乱していると言うかも知れない。愚かな人たちよ!
 私たちは皆この下界でいろんなものを持っている。ポオルは彼の fiancée をも持っていれば、愛をももっていれば、ポルタヴァの小さい土地をも持っている。私のは別なものである、全く別なものである。私の欲しいと思うすべてのものを、私の欠いでいるすべてのものを、人間のすべての喜びを、人間のすべての幸福を、人間のすべての満足を持ちたいと思っている。けれどもまた1年待たねばならないのか、この世の中の誰よりも早く駆け抜けねばならぬ私が!
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by bashkirtseff | 2009-01-09 12:12 | 1880(21歳)
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