1879.03.14(Fri)

 ポオルは私の意見を用いないで行ってしまった。私は怒って、行っちゃいけないと言った。彼は名誉にかけて行くと言い出した。私は戸を押さえていた。けれどもちょっとうっかりしている間に、彼は逃げ出したのである。
 問題は彼が約束を守る人間だということを、証明すると言うのであった。彼は今日行くと誓っていた。要するにそれは、大事なことをもつまらなく感じながら、取るにも足らぬことでそれを補おうとする心の弱い人の意地であった。
 おかげで私はいらいらしないで済んだ。私はすぐと叔母から20フランもらって、ポルタヴァの父の所へ攻撃の電報を打とうと思った。ところがその瞬間にロザリが入って来て、シャンポオ(時々私の着物を作らせる娘)はチフスにかかったからもう頼むわけにはいかないと言った。彼女は下職の女たちに皆逃げられて独りぼっちになってしまった。私は急に考えついて、電報を引き裂いて、その20フランをシャンポオへ贈ることにした。
 返報の来ない善事をするのは何よりも楽しいものである。私は、チフスなどは怖くないから、彼女を見舞ってやりたく思うけれども、そうすると礼を言ってもらいたいのだと思われるかも知れない。その上、こんなはした金でもすぐ彼女に贈らなかったらば自分で使えたのだとも思われる。白状すると金をやるということの楽しみはそのときはそれほど強くはなかったのである。私は急に限りなき慈善心を感じだした。誰も私の悲しみを救ってくれようとする人はないのに、人の悲しみを救おうとするのは、いわば chic〔ハイカラ〕なことではあるまいか?
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by bashkirtseff | 2008-12-15 13:26 | 1879(20歳)
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